子どもたちの「努力」をほめるためにしていること

さて、前回は子どもたちの「努力」をほめることの大切さを、論文に掲載されたデータを元に、少しお話しさせていただきました。実際に私が日本語を教えている子どもたちの様子を見ていても、この考察には納得できることがたくさんあります。

今日は、この「子どもたちの努力をほめる」という観点から、私が実際に実践していること、また感じていることをご紹介したいと思います。

「自分で考える」ことをほめよう!

日本国外で日本語を学ぶということは、多くの場合、生活にあまり必要のない言葉を学ぶことになるので、そのモチベーションの維持がとても大変です。そんなことから、楽しく学ぶこと、日本語学習が嫌いにならないようにすることを大切にして、私は日々のレッスンを行っています。

例えば「漢字の読み」や「語彙」のクイズを出した時に、答えの分からないお子さんは、横にいるお母さんに小声で答えを聞いたり、手元にある答えのプリントを見たりします。私はレッスンの中で、それを「よし」としています。というのも、そのような確認作業をすることも、学びの一つだと考えているからです。

ただ、それ以上に、子どもたちが、少し時間をとって自分で答えを考えて、それでも分からなかったり、間違えたときには、しっかりとその「自分で考えた・考えようとした」という事実をほめるようにしています。

これを気長にやっていると、面白いことに、答えをすぐに見たり聞いたりすることが徐々に減ってきて、「う〜ん」と目をクルクルさせて考えようとしたり、思い出したりしようとする時間が長くなってきます。

そして、そこで答えを思い出したり、思いついたときの子どもたちの達成感に満ちた顔を見るのは、日本語の先生をしていてとてもうれしい時の一つです。

また、小学校から中学校へかかるくらいの大きなお子さんだと、自分で文法のルールを発見したり、習ったばかりの表現について、「これはこんな時には使えるの?」といろいろと自分の中で考えて、多くの質問をしてくれるようになります。

受身的にレッスンに参加するのではなく、新しい知識を考えながら消化する過程を大切にしたいと思っています。

「自分で考える」環境を用意するには

さて、ではどのように子どもたちが自分で考える環境を整えていきましょうか。この際のポイントとしては、子どもの表情を良く見て、子どもが一生懸命、考えている最中なのか、すでに考えるのが嫌になっているのかを良く見極めることかなと感じています。子どもがせっかく一生懸命、考えているのを、あまり早々と正解を示して遮ることのないようにしたいところです。

もちろん、日常のお忙しい時間の中で、子どもたちの日本語の勉強に時間を使っておられる保護者の方々です。いつまでも待ち続けるということは、なかなかできないと思います。これは、レッスンをしている自分を省みても、なかなか簡単なことではありません。

けれど、せっかく、子どもたちが自分で考え始めたのです。まずは、いつもより一呼吸でも多く待ってみるということを一緒に心がけてみませんか。

そして、厳しそうだなと思ったなら、ここからが腕の見せどころです。どうぞ、何か、答えにつながるようなヒントを出してみてください。そうすると、あきらめかけた子どもたちも、また考え始めることができるのではないかと思います。

「間違えても大丈夫」という安心感

また、やはり「間違えても大丈夫」という雰囲気作りは大切かと思います。もし、お子さんの勉強に付き合っている保護者の方の第一言語が日本語の場合、間違いが繰り返されることに、「もう!」というお気持ちになってしまうこともあるでしょう。当然のお気持ちだと思います。

でも「間違えることも学びのためには大切なので、間違えても大丈夫」としっかりと子どもたちに伝えることは、積極的に課題に挑戦する気持ちを高めていきます。これは、子どものレッスンでとても効果的に機能しているように感じているのですが、加えて大人のレッスンでも、この言葉を投げかけるだけで、場がフッと緩むように思います。

間違えても大丈夫な環境で、少しじっくりと考える時間を持つ。そして、答えを導き出すために、ヒントを出して、正解を見つけるためのハードルを徐々に下げていく。そして、最後にできても、できなくても子どもたちが行った努力をしっかりとほめる。簡単なようで、実際に行ってみると難しいこともいろいろあるかと思います。

あまり「自分で考えて」を繰り返さない。

さて、「自分でがんばって考えること」を励まし、その努力をほめたいところですが、あわせてわたしが努力しているのが、子どもたちに「がんばって、自分で考えてみよう」をあまり繰り返さないことです。

「考えること」は自発的に行う必要があって、周りのプレッシャーによって「考えること」をあまりに求められると、「考える」ことを楽しむことができなくなってしまうように感じます。

自分で「考えて」そして答えを見つけるプロセスを楽しむことで、次も考えることを楽しむことができるのではないでしょうか。がんばって考えたことをほめることと、がんばって考えるように絶えず求めることは、少し違うのではないでしょうか。

また、あまりに「考えること」を求められると、子どもたちは賢いので「考えるフリ」をするようになってしまうこともあるでしょう。そうなると、もう「自分で考える習慣」を取り戻すのは難しくなってしまいます。

大切なのは「自分で考えること」を楽しむことではないでしょうか。

このように考えて毎日のレッスンを行っているのですが、皆様のご家庭でのご経験はどうでしょうか。もちろん、お子様によっても違うと思いますし、年齢や環境によっても違うと思いますが、少し心に留めておいていただけるとうれしいです。

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